半導体製造装置や精密計測装置では、磁場が位置決め精度や測定結果に影響しかねません。磁場環境で使用する位置決めステージを選ぶ際は、材料の磁気的な性質だけでなく、駆動部や位置検出機構を含む製品全体の仕様を把握することが重要です。
材料の磁気的な性質は一様ではなく、磁場への反応の仕方や大きさが異なります。位置決めステージでは、こうした材料の特性と使用環境を踏まえて、必要な磁気特性を備えた製品を選びます。
磁性とは、物質が磁場に対してどのように反応するかを示す性質です。代表的な分類として、磁場に強く引きつけられる「強磁性」、弱く引きつけられる「常磁性」、弱く反発する「反磁性」が挙げられます。
例えば、鉄・ニッケル・コバルトは強磁性を示す代表的な金属です。アルミニウムやチタンは常磁性、銅や銀は反磁性に分類されます。常磁性や反磁性の材料は、一般に強磁性の材料と比べて磁場への反応が小さいものの、磁気的な性質が完全にゼロというわけではありません。
位置決めステージを選ぶ際は、使用する磁場への影響を抑えるため、各部品に使われている材料の磁気特性を確認することが重要です。合金の組成や部品構成も含め、メーカーが示す磁気特性や使用条件を確認しましょう。
磁場環境で非磁性のステージが求められるのは、ステージが磁場から受ける影響や周囲の磁場分布への影響を抑えるためです。
また、精密な位置決めが必要な装置では、磁場によってステージに力やトルクが作用し、位置や姿勢が変化してしまわないかも考慮しなければなりません。非磁性の材料を採用することは対策の一つですが、必要な性能を満たせるかどうかは、磁場強度や装置の構造、測定目的を踏まえて判断します。
製品に永久磁石が使われていなくても、構成部品が磁場に反応するおそれは残ります。例えば、駆動部に磁石を使っていなくても、ステージ本体や固定部品に強磁性の材料が含まれていれば、磁場の影響を受けます。つまり、磁石の有無は「非磁性」かどうかの判断基準になりません。
磁場環境では、磁性体に作用する力やステージの構成部品が周囲の磁場・検出機構に与える影響が問題になりえます。装置の用途に応じて、どの部分が性能に関係するのかを把握することが大切です。
ステージの部品に鉄などの強磁性体が含まれていると、磁場中で部品自体が磁化し、周囲の磁石や磁性体との間で引力や斥力が生じます。その力が固定部品に加わり続ければ、緩みやがたつきも起こりえるでしょう。
また、磁場の強い装置内では、吸引力で部品が外れて周辺機器に接触し、装置の破損や作業者のけがにつながりかねません。磁場が強いほどリスクは大きくなります。
強磁性体を含む部品は周囲の磁力線を引き寄せ、その付近の磁場を強めて歪ませます。また、電気を通す金属の部品では渦電流が生じ、磁場が弱まる場合もあります。
試料の近くにこうした部品があると、試料に加わる磁場の強さや均一性が設計値からずれ、測定結果に影響します。
対策としては、試料付近に置く部品を非磁性材料で構成し、強磁性体の部品は試料から離して配置する方法が一般的です。磁場の均一性が特に重要な場合は、ステージを設置した状態で磁場分布を測定し、ずれの大きさを把握しておくと、設計段階で補正を検討できます。
電磁力を利用するモーターやアクチュエータは、コイルに電流を流して動力を得るため、動作中に駆動部の周囲へ磁場が生じます。磁場は電流の大きさに応じて変化し、周辺機器や測定対象に影響します。
特に、磁場に敏感な測定を行う装置では、駆動部の磁場が測定のノイズや誤差の原因になります。駆動方式によって影響の出方は変わるため、電磁力を使うモーターは試料から離して配置するか、磁気シールドで囲う方法が一般的です。
圧電素子を利用するピエゾステージは、電磁力を使わずに動作するため、駆動部から生じる磁場を抑えやすい方式です。試料の近くに駆動部を置かざるを得ない場合は、こうした駆動方式を選ぶ手もあります。
磁気式のエンコーダは、磁気スケールの磁界変化を読み取って位置を検出します。そのため、外部磁場が加わると読み取り信号にずれが生じ、位置の誤検出や出力の不安定化を招きます。
光学式のエンコーダは、光の明暗パターンで位置を検出するため、外部磁場の影響を受けにくい方式です。ただし、センサ内部の電子部品や配線が磁場でノイズを拾うと、信号の品質が落ちる場合があります。
強い磁場の環境では、光学式など磁気に依存しない検出方式を選ぶのが基本です。磁気式を使わざるを得ない場合は、センサを磁場の弱い位置に配置し、磁気シールドで覆うとよいでしょう。
磁場による力や、位置センサの検出への影響が生じると、使用条件によっては位置決めの安定性や再現性が損なわれるかもしれません。ただし、磁場環境での位置決め性能は、材料だけでなく、ステージの構造や駆動方式、センサ、設置方法などにも左右されます。カタログの性能が常温・通常環境での値なら、実際の磁場環境で同等の性能が出るとは限りません。
非磁性の位置決めステージは、磁場による装置の誤作動や測定誤差を防ぐ必要がある場面で使われます。主な用途は次のとおりです。
MRIの強い静磁場によってステージの部品が吸引される事故や金属部品の磁化による撮像画像のゆがみを防ぐために非磁性が使われています。MRIガイド下で針を進める医療用ロボットなど、撮像中に対象物の位置を調整する装置でも必要です。
電子ビームは磁場によって軌道が曲がるため、ステージの磁気が観察像のずれやゆがみ、描画位置の誤差につながります。微細な構造を観察・描画する際に、ビームの軌道への影響を抑えるために使われます。
電子ビームを使う半導体製造・検査装置では、磁場によるビームの軌道のずれが、回路パターンの描画位置や検査精度に影響します。微細な回路を正確に形成・検査するため、ステージや駆動部の磁気特性が重視されています。
超伝導磁石を使った物性測定装置などでは、試料に加える磁場の強さや均一性が測定結果に影響します。ステージの磁性によって磁場が乱れたり、強磁場でステージに力が働いて試料の位置がずれたりするのを防ぐために使われます。
超伝導磁石を備えたクライオスタットでは、数ケルビン以下の低温と数テスラ以上の磁場が重なる環境で試料を動かします。ステージの磁性による位置ずれを防ぐとともに、低温でも駆動できる材料や機構が使われています。
ここでは、選定時にチェックしておきたいポイントを紹介します。
まず、ステージを設置する場所の磁場強度を把握しましょう。磁場の強さは装置内の位置によって異なり、強い磁場ほど磁性体に大きな力が働きます。ステージ本体だけでなく、センサや配線も同じ強度の磁場にさらされるため、設置位置で想定される最大値を基準に、各部品が耐えられるかをチェックしてください。
磁性体に働く力は磁場の強さや向き、空間的な変化に左右され、特に磁場の強さが大きく変化する場所では吸引力が強まります。移動軸と磁場の向きの関係も無視できません。金属部品が磁場を横切って動くと渦電流が生じ、動きを妨げる力が発生します。磁場の方向と分布を把握したうえで、ステージの設置姿勢や移動軸の向きを決めましょう。
ステージ本体が磁場環境に適合していても、センサやエンコーダ、配線、固定部品などが同じ条件に耐えられるとは限りません。製品全体で必要な性能を満たすため、周辺部品も含めて見直しましょう。
特に見落としやすいのが、ねじなどの固定部品です。非磁性とされるステンレス鋼でも、加工の過程で磁性を帯びることがあります。試料に近い部品ほど、材質だけでなく加工後の状態にも注意が必要です。
用途に応じて、必要な位置決め性能を明確にします。主な確認項目は次のとおりです。
磁場中では繰り返し位置決め精度や位置安定性が悪化する可能性があるため、分解能だけでなく、繰り返し位置決め精度と位置安定性も評価しましょう。
ストロークはステージが移動できる距離、可搬質量は搭載できる対象物の質量に関する仕様です。必要な移動範囲や搭載物の重さが仕様を超えると、求める動作性能を満たせなくなるため、試料だけでなく、治具や固定具などを含めた搭載物全体の質量を把握しましょう。磁場中では治具が磁性体だと力を受けるため、搭載物側も非磁性材料で揃えます。
使用環境に応じて、対応する真空度、動作温度範囲、発塵量などの仕様を確認します。真空中では材料からのガス放出量、極低温では熱収縮や低温下での動作性能も確認が必要です。磁場・真空・極低温などの条件が重なる場合は、それぞれの条件を個別に満たすだけでなく、すべての条件下で使用できる材料と構造を選びましょう。
磁場環境で位置決めステージを使用する場合は、「非磁性」という表記だけでなく、構成材料や駆動方式、位置検出機構を含めた製品全体の仕様を確認しなければなりません。
選ぶ際は、磁場強度や方向、必要な位置決め性能、ストローク、可搬質量、温度や真空などの使用条件を明確にしましょう。カタログの記載だけでは判断できない点は、実際の使用条件をメーカーに伝えて確認することが、用途に合った製品選びにつながります。
位置決めステージを動作範囲の小さい順に並べると、ピエゾステージ・ステッピングモータステージ・リニアモータステージの3種類に大きく分類できます。充実したラインナップから選べて、いざというときはカスタム開発もできるおすすめメーカーをご紹介しているので、依頼先選びの参考にしてみてください。
引用:フィジックス テクノロジー公式サイト
(https://physix-tech.com/index.html)
引用:コムス公式サイト
(https://www.coms-corp.co.jp/)
引用:日本トムソン公式サイト
(https://www.ikont.co.jp/)