半導体製造装置や電子顕微鏡、材料分析装置、量子技術に関する実験装置など、真空チャンバー内で精密な位置決めを行う場面があります。
こうした環境では、通常の位置決めステージをそのまま使用すると、潤滑剤や材料からのアウトガスが真空環境に影響したり、真空中での熱設計や潤滑方法の違いによって、期待した性能を発揮できなかったりする可能性があります。
真空環境で位置決めステージを使用する場合は、単に「真空対応」と記載されているかだけでなく、要求される圧力、使用材料、潤滑方法、ベイクアウト条件、駆動方式、位置決め性能などを総合的に確認することが重要です。
この記事では、真空対応位置決めステージの基本的な考え方から、アウトガス対策、ベイクアウト、仮想リーク、真空中の熱設計、位置検出方式、選定時のチェックポイントまでを整理します。
真空対応位置決めステージとは、真空環境で使用することを想定して設計された位置決めステージです。
真空環境では、大気中で使用する場合とは異なる条件が生じるため、位置決めステージにも真空環境に適した材料、潤滑方法、構造、駆動部品などが求められます。
また、必要とされる真空度によって確認すべき仕様も異なります。比較的高い圧力の真空環境と、高真空・超高真空環境では、アウトガスやベイクアウト、潤滑方法などに対する要求が変わるためです。
通常の位置決めステージを真空環境で使用できるかどうかは、製品仕様によって異なります。
大気中での使用を前提とした製品では、潤滑剤、樹脂、接着剤、ケーブルなどが真空環境に適していない可能性があります。
また、真空中では熱の伝わり方も大気中とは異なるため、駆動部の発熱がステージの温度上昇や位置決め精度に影響する場合があります。
そのため、「大気中で正常に動作するステージだから真空中でも使用できる」とは判断せず、メーカーが示す真空環境での使用条件を確認する必要があります。
一般的な位置決めステージには、可動部の摩耗や摩擦を抑えるため、潤滑剤が使用される場合があります。また、樹脂部品や接着剤、ケーブルなど、さまざまな材料が組み込まれています。
大気圧下では問題にならない材料でも、真空環境では内部に含まれる水分や揮発成分などが気体として放出され、真空環境に影響を与えることがあります。このような気体放出が「アウトガス」です。
アウトガスが多い場合、排気に時間がかかったり、要求する到達圧力まで圧力を下げることが難しくなったりする可能性があります。また、放出された成分が試料や光学部品などの表面に付着し、測定や製造工程に影響する場合もあります。
そのため、真空環境で使用する位置決めステージでは、材料や潤滑剤だけでなく、洗浄状態、構造、配線なども含めて真空条件に適した設計になっているかを確認する必要があります。
真空環境は、低真空・中真空・高真空・超高真空などに分類して説明されることがあります。ただし、これらの圧力区分は資料や規格によって境界の示し方が異なるため、ステージを選定する際には名称だけで判断しないことが重要です。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 要求圧力 | 装置内で必要となる圧力、到達させたい圧力 |
| 到達圧力 | メーカーが提示するステージの使用可能圧力・真空仕様。また、実際の装置ではポンプ性能やガス負荷などを含めたシステム全体の到達圧力を確認する |
| アウトガス | 材料や潤滑剤などからの気体放出に関する情報 |
| ベイクアウト | 必要な場合の対応温度や条件 |
| 試験データ | RGAなどによる残留ガス分析や真空試験の有無 |
特に高真空・超高真空領域では、単に「HV対応」「UHV対応」といった名称を見るだけでなく、その製品が想定している使用圧力範囲や真空仕様を確認し、装置全体として必要な到達圧力を満たせるか検討するが重要です。
「真空対応」「高真空対応」「超高真空対応」という表記だけでは、実際の使用条件まで判断できない場合があります。
たとえば、同じ「真空対応」の位置決めステージでも、想定している圧力、使用できる潤滑剤、ベイクアウトの可否、使用できる温度、モーターやセンサーの仕様などが異なる場合があります。
そのため、製品を選定するときは「真空対応」という言葉だけを見るのではなく、使用可能な圧力範囲を具体的な数値で確認し、その条件で位置決め性能がどのように規定されているかを確認することが重要です。
真空対応ステージでは、真空環境で使用実績のある材料を選定することが重要です。
金属ではステンレス鋼やチタンなどが使用される場合があり、樹脂ではPEEKやポリイミドなど、真空用途で使用実績のある材料が採用されることがあります。
ただし、材料の種類だけで真空適性を判断することはできません。同じ材質でもグレードや表面状態、加工方法、洗浄状態などによって真空中での挙動が異なる場合があります。
そのため、材料単体のデータだけでなく、完成したステージとしての真空対応実績や試験データを確認することが重要です。
真空対応ステージでは、潤滑剤の選定も重要なポイントです。
真空環境では、一般的な潤滑剤がアウトガスの原因となる可能性があるため、用途に応じてグリースレス構造を採用したり、真空用途に適した潤滑剤を使用したりします。
ここで注意したいのが、「真空対応=グリースフリー」ではないという点です。
真空対応製品の中には、真空環境での使用を想定した潤滑剤を使用しているものもあります。したがって、グリースの有無だけではなく、使用している潤滑剤の種類、使用箇所、使用量、対応する圧力範囲などを確認する必要があります。
特に高真空・超高真空領域では、メーカーがどのような潤滑方法を採用し、どの条件で真空性能を評価しているかを確認しておくことが重要です。
高真空・超高真空の装置では、部材の表面や内部に吸着したガスを減らすため、装置を加熱する「ベイクアウト」が行われる場合があります。
ベイクアウトの温度や時間は、装置の構成や使用材料、ステージの仕様などによって異なります。そのため、「UHVなら必ず○℃まで加熱する」と一律に考えるのではなく、実際に使用するステージが必要なベイクアウト条件に対応しているかを確認することが重要です。
特に確認したいのは、以下のような部品です。
ベイクアウトによる加熱で部品が変形したり、電気部品の使用温度範囲を超えたりすると、ステージの性能や信頼性に影響する可能性があります。
位置決めステージには、モーターやピエゾ素子など、さまざまな駆動方式があります。真空環境では、駆動方式そのものだけでなく、モーター、センサー、配線、潤滑剤などを含めたステージ全体の設計を確認する必要があります。
| 駆動方式 | 確認したいポイント |
|---|---|
| ピエゾ駆動 | ストローク、発熱、駆動回路、センサー、真空対応条件など |
| モーター駆動 | モーターの発熱、材料、潤滑、ケーブル、磁性、真空対応条件など |
ピエゾ駆動だから必ず真空に適している、あるいはモーター駆動だから真空では使用できない、というわけではありません。実際には、駆動方式と製品仕様を組み合わせて判断する必要があります。
真空中では気体による対流・熱伝達が小さくなるため、固体を介した熱伝導や輻射を含めた放熱経路を考慮する必要があります。
ステージを構成する部品に温度差が生じると、材料の熱膨張・収縮によって部品の位置関係が変化し、位置決め精度に影響する可能性があります。
高い位置決め精度が必要な真空装置では、分解能や繰り返し精度だけでなく、駆動時の発熱量や放熱経路、使用温度なども確認することが重要です。
真空装置では、外部から気体が漏れ込む「リーク」とは別に、構造内部に閉じ込められた気体が徐々に放出される「仮想リーク」と呼ばれる現象にも注意が必要です。
例えば、ねじ穴や部品内部などに閉じた空間が残っていると、そこに存在する気体が排気後も徐々に放出され、真空排気を妨げることがあります。
そのため、高真空・超高真空用途では、必要に応じて通気穴を設けたねじや部品を使用するなど、閉じた空間を減らす設計が行われます。
ステージを選ぶ際には、外部からのリークだけでなく、仮想リークにつながる構造が考慮されているかも確認しておくとよいでしょう。
高精度な位置決めが必要な真空環境では、ステージがどのように現在位置を検出しているかも確認する必要があります。
位置検出には、エンコーダーなどのセンサーを使用する方式があります。クローズドループ制御を採用するステージでは、位置検出器から得られた情報を制御に利用して、目標位置とのずれを確認します。
真空環境で位置検出器を使用する場合は、検出器そのものについても、使用可能な圧力、温度、発熱、材料、ケーブルなどの仕様を確認する必要があります。
真空環境で位置決めステージを使用する場合、真空性能だけでなく、必要な位置決め性能を満たしているかも確認する必要があります。
分解能は、位置決めステージが制御できる位置の細かさを示す指標です。
ナノメートル単位などの微細な位置調整が必要な場合は、必要な分解能を満たしているかを確認します。
ただし、分解能の数値だけで実際の位置決め性能を判断することはできません。使用温度、制御方式、位置検出方式なども含めて確認する必要があります。
繰り返し精度は、同じ位置への移動を繰り返したときに、どの程度同じ位置へ戻れるかを示す指標です。
同じ位置へ何度も試料を移動させる用途では、分解能だけでなく繰り返し精度も確認する必要があります。
また、真空環境では熱による位置変化などが生じる可能性があるため、必要に応じて実際の使用条件に近い環境での性能データを確認します。
位置決めステージを選定するときは、必要な移動距離だけでなく、移動速度や搭載する試料・部品の重量も確認します。
特に真空チャンバー内では設置スペースが限られる場合があるため、ステージ本体の外形寸法や可動範囲、ケーブルの取り回しなども含めて検討することが重要です。
自社の用途に合った製品かどうかを判断する際は、以下の項目を確認しましょう。
特に研究開発用途では、真空だけでなく、極低温、強磁場、放射線、限られた設置スペースなど、複数の条件を同時に満たす必要がある場合があります。
その場合は「真空対応」という一つの条件だけで製品を選ぶのではなく、必要な環境条件をすべて洗い出したうえで、各条件を満たせるか確認することが重要です。
用途によって必要となる圧力、ストローク、位置決め性能、温度、磁場、放射線耐性などは異なります。そのため、用途名だけで製品を選ぶのではなく、装置側の具体的な要求仕様を整理することが重要です。
真空対応位置決めステージをメーカーから選定する場合は、単純に「真空対応製品があるか」だけで比較するのではなく、自社の要求条件を満たす製品・オプション・カスタム対応があるかを確認することが重要です。
メーカーによって対応する圧力範囲は異なります。「高真空対応」「超高真空対応」といった表記だけでなく、実際の到達圧力や、その値を実現するための条件を確認しましょう。
用途によっては、真空に加えて極低温や強磁場などへの対応が必要になることがあります。こうした場合は、ステージ本体だけでなく、モーター、センサー、ケーブル、材料などを含めて確認する必要があります。
必要な仕様を標準製品や既存オプションで満たせる場合、フルカスタムと比較して設計・調達の負担を抑えられる可能性があります。
一方で、真空・極低温・非磁性など複数の条件を同時に満たす必要がある場合は、標準品だけでは対応できないケースもあります。必要な仕様を整理したうえで、メーカーに確認することが大切です。
真空対応位置決めステージを選ぶ際は、単に「真空対応」と記載されているかを見るだけでなく、要求圧力、アウトガス、潤滑方法、ベイクアウト、駆動方式、位置決め性能、熱設計、位置検出方式などを総合的に確認することが重要です。
特に高真空・超高真空用途では、使用材料や潤滑剤だけでなく、完成したステージとしての到達圧力や試験データを確認する必要があります。また、真空中では駆動部の発熱によって温度分布が変化し、熱変形が位置決め精度に影響する可能性があるため、必要に応じて熱設計についても確認します。
さらに、極低温や強磁場などの条件が加わる場合は、真空性能とは別に、それぞれの環境条件への対応可否も確認しましょう。
真空対応ステージには、グリースレス構造を採用した製品だけでなく、真空用途に適した潤滑剤を使用する製品もあります。「グリースフリーかどうか」だけを基準にするのではなく、使用条件に対してメーカーがどのような仕様・評価を行っているかを確認することが重要です。
自社の装置で必要となる圧力、ストローク、位置決め性能、温度、磁場などの条件を整理し、それらを満たせる製品を比較検討しましょう。
位置決めステージを動作範囲の小さい順に並べると、ピエゾステージ・ステッピングモータステージ・リニアモータステージの3種類に大きく分類できます。充実したラインナップから選べて、いざというときはカスタム開発もできるおすすめメーカーをご紹介しているので、依頼先選びの参考にしてみてください。
引用:フィジックス テクノロジー公式サイト
(https://physix-tech.com/index.html)
引用:コムス公式サイト
(https://www.coms-corp.co.jp/)
引用:日本トムソン公式サイト
(https://www.ikont.co.jp/)